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その四 恨果
自分を抱きしめて、あやしてくれているひとの顔を、ぜひとも見たいと思う。
優しく髪を梳いてくれる細い指や、豊満な胸の柔らかい感触、時々囁いてくれる声の穏やかさは、イワナガが幼いころからずっと心に描いて来た、「母」そのものなのだった。
(お母さん)
断続的に泣きながら、抱きしめられるままに甘えていた。
イワナガは今、これまで流せなかった涙を全て吐き出そうとしているのである。ぐずぐずと啜り上げる涙と、号泣し声が枯れるほど激しく絞り出す涙と――どれほど長い時間をかけてもいいから、今ここで全て出してしまいなさいと、そのひとは言うのだった。
(お母さん、お母さん)
腫れぼったい目を開いて、自分を癒してくれるひとの顔を見上げようとするが、決まってふよふよとした穢れの煙が流れてきて、その煙に邪魔をされて姿を見ることができないのだった。
ぎゅっと抱きしめられながらも、そのひとの顔や姿を確認することができない。
イワナガには、それが寂しいのだった。
唐突に訪れる眠りの中で、イワナガは様々なものを見せられた。
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