その四 恨果

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 「あなたはあまりにも苦しんできました。それであなたは、全てを見通す目を失いかけていたのです」  だから、ここで、わたしの胸の中で、苦しみを振り落としてゆきなさい。  そして失いかけていたものを取り戻しなさい。  ……。  サクヤが妬ましかった。  妬ましさのあまり、サクヤのことを考えるだけで気が狂いそうである。  ニニギに嫁いだのはイワナガとサクヤの二人であるのに、ニニギが欲しいのはサクヤだけだった。  (サクヤあ……)  父王は、イワナガに穢れを集中させて清らかなオオヤマツミを作り上げた。その中でサクヤは穢れを知らないまま清く成長した。  (全部、わたしが背負ったからなのに)  オオヤマツミが華やかに栄えているのは、イワナガが人柱になったから。  にもかかわらず、誰がイワナガを顧みただろう。  ぼこぼこと真紅の溶岩が噴き上がる。  ぼこっ――大きな弧を描き、黄色く澱んだ空に向かい、溶岩の噴水が放たれる。  ぼこぼこ――ぼこぼこ……。  「うふふ、みんな良い人ばかり。清らかなこの国が大好きよ」  花がほころぶ。人々が次々と笑顔になってゆく。光の中で舞い遊ぶような娘、サクヤ。  (許さない)  ……。  「みんな、わたしのことが好きなのよ。だからわたしもみんなのことが大好き。幸せよ……」      
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