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ざくんばすんと人を斬った感覚が右手に蘇る。悍ましい感触だ。泣き叫ぶ声、悲鳴も全て覚えている。
嫌だわたしに関わらないで、わたしの憎悪を刺激しないで――言ったのに。あんなに叫んだのに、誰も耳を傾けようとせず、ただ、臭い汚い穢れているとののしったのだ。
(わたしは……)
命が無残に切り落とされる瞬間を何度もイワナガは見た。
穏やかに続いていた日常が突然切り捨てられ、恐怖と絶望の中で魂の輝きが宙に消えてゆく。
殺される瞬間の恐ろしさは凄まじい。
人を斬る瞬間の自分の姿が、閉じた瞼の裏側に映し出された。ひっとイワナガは声を立てた。
草薙に翻弄される苦痛で泣きじゃくり、悲壮な表情をしているはずが、怯えて逃げる人々を追いかけ、背後から斜に斬り捨てた瞬間の己の顔は――笑っていたのだった。
死ね、死ね、みんな嫌い、わたしのことを顧みてくれないお前たち、サクヤのことばかり讃えるお前たちを、わたしは憎む。憎む憎む憎む……。
(おとうさん)
心の支えだった、老いた父のことを思うと憎悪は更に湧き上がる。
どうしても許せないと思った。抱きしめて欲しい、温かい言葉をかけてほしいという思いが強い程、心は荒く波立つのだった。
「許す必要はないのです」
柔らかな声が耳元で繰り返し告げる。
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