その四 恨果

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 憎いと思うものを許す必要はない。草薙がなくても、お前は生きる者の命を左右することができるのだ。  「それほど強大な力を持っているのです、本来のあなたは」  許さなくていい。憎み続けて良い。あなたは美しくなくていい。清らかである必要もない。  だけど、自分の力を知りなさい。自分がどうあるべきかを知りなさい。  華奢な指が頬を滑り、零れ落ちた涙をぬぐった。  イワナガは目を開いた。  どうしても、このひとの顔が見たかった。イワナガは確かに一度死に、改めて生まれ、このひとによって育てられたのである。  幼子の姿から、成長した娘の姿になり、あらゆるものを見通す目を手に入れた。  イワナガには、オオヤマツミのことも、葦原中国のことも、それ以外のことも、すべてが手に取るように分かるのだった。  ぐっと唇を噛みしめ、すべてを悟ったがための諦めを感じていた。     
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