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Rainy walk
ペトリコール、と言うらしい。
ギリシャ語で石のエッセンス。雨の降り始め、乾いた地面から俄かに舞い上がるあの薫り。
これを嗅ぐ度に、僕は何時かの空模様を思い出す。小学校の夏休み、プールサイドで浴びた夕立の走り。実家に続く砂利道にぽつぽつ降り出した五月雨。回る自転車のホイールに雨粒を絡めて、街中の舗装を駆け抜けた部活終わりの天気雨。
そして、
「――あぁ」
大学のゼミに行けずに、窓際のベッドからぼんやりと眺めていた今日の空。
少しずつ雨音が大きくなってきて、隣のアパートの隙間から覗く路地裏のアスファルトが、濃い色に塗りつぶされていく。
「降ってきちゃったな」
暫くして、蒼い灰白色の湿り気が僕の鼻腔に入ってくると、午後起きの身体に纏わりつく罪悪感も少し閑になってしまった心の中も、色んなものがどうでも良くなる。
この街に来て、もう四年。
ペトリコールが連れてくる記憶の中で変わらないのは、僕は何時も雨に打たれながら空をぼうっと眺めていたって事で、
「……変わっちまったな」
変わったのは僕の在り方だ、と思い返しながら、静かに窓を閉めた。
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