拝啓 合田和明先生

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あなたは覚えていますか?つい六年前まで、正門のすぐ脇に大きな桜の樹があったことを。入学したての小学生たちがあの満開の桜の下で記念写真を撮っていましたね。 あなたは、この学校に通っていた生徒でもあるから、きっとアルバムに入学式の時の写真が1枚くらい残っているかもしれません。 あの樹の下に、タイムカプセルを埋めたのは、確かあなたの代でしたね。 あの学校の50回生に当たるあなた方が卒業する際、記念行事として行われました。 あなたは何を埋めたか、もう覚えていないかもしれないですが、私は知っています。忘れたくても、忘れられない。だって、私はあなたのことが好きだったから。 でもあなたが好きだったのは、別の女の子。名前は香ちゃん。 小学生の頃は可愛い文房具を集めたりしますが、当時、フルーツの香りがする消しゴムが流行っていました。苺の形をした消しゴム、メロンの形をした消しゴム。オレンジの形をした消しゴム。各々別々の香りがして、それらを友達同士で交換するのが楽しかったのです。 香ちゃんはメロンが大好物で、だからその消しゴムもメロンを当然持っていました。 ある日あなたは登校してすぐ、筆記用具を一式忘れてしまったことに気付きました。そして、隣の席だった香ちゃんに、シャーペンと消しゴムを貸して?と頼みましたね。 すると、あり得ないことに、香ちゃんは自分のお気に入りの、使わずに大切にしていたメロンの消しゴムをいつも自分が使っているシャーペンと一緒に渡したのです。 あなたもそれに気付きましたよね? そして、もしかしたら、香ちゃんも自分のことを好きでいてくれるのかもしれない、と思ったことでしょう。 その考えは、間違いじゃなかった。 あなたと香ちゃんはめでたく両想いとなりました。 あなたはタイムカプセルに香ちゃんから借りて、いや、そのままもらった形になったメロンの消しゴムを入れましたね。 小学校三年生からあなたはサッカーをやっていて、ずっと使っていたゼッケンをあなたは代わりに香ちゃんに渡しました。ゼッケンはタイムカプセルにはさすがに入らず、香ちゃんはそれを家に持ち帰っていきました。 そんなあなた方二人の様子を、私はただ見ていることしか出来ませんでした。
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