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 戦争から帰ってきた。何故無事だったのか、自分でも分からなかった。戦場に立ち、敵に突っ込んでいく日本兵。皆、次々に死んでいく。俺ももう無理だと思ってしまった。しかし、生きなければならない。生きなければならない理由があった。戦死した仲間だって色々な理由があったはずだ。生きたかったはずだ。俺は戦場に立ったその時、それを目の当たりにした。「生きなければならない」という使命を与えられた気がした。その直後、重たい何かがのしかかってくる。見えない何かが、俺の背中の上にどっしりと構えているような気がした。俺はそれを、「責任」「義務」等とは思っていない。もっと、更に大事な物と感じ取った。だから、敢えて名前を付けない。俺は、戦死した仲間の為に、生き延びた。  しかし、戦争とは怖いもので、一度人を殺めるという行為を行ってしまった後、殺気という物を帯び始める。そのつもりは毛頭ない。だが身体はそうはいかないのだろう。そういう空気を纏ってしまっているようで、普通の人は寄り付かない。  明治三十八年。東京へ帰った。東京には俺の帰る場所がある。     
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