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東京でも田舎の方、山道を抜けた先に家があった。そこには俺の彼女がいた。いつも野良猫と戯れている可愛い奴だった。俺が戦争から帰り、初めて帰宅した我が家だ。
彼女――雪子は俺を見つけると駆け足で近寄ってきた。
「おかえり。ひいちゃん」
「ただいま、雪ちゃん」
郵便受けを挟んで二人で向かい合い、ほくそ笑んだ。
中に入り、部屋を見渡す。何も変わっていなかった。俺がいなかった間、雪ちゃんには寂しい思いをさせてしまった。普通に生きているだけでも、俺がいないだけで物悲しくなるだろう。寂しいと一言、雪ちゃんから聞いて見たいものだ。
「雪ちゃん」
厨に立って茶を淹れている雪ちゃんに思い切って声をかけてみた。
「はい、どうしました?」
「雪ちゃん、あのさ、俺がいない間、その……寂しかった?」
一瞬きょとん、として目を丸くさせていた。一拍置いて、口を開いた。
「ええ、そうね。とても寂しかったわ。ひいちゃんが戦争に行ってしまってから、ずーっと私の遊び相手は猫様だったもの」
「そうか、寂しい思いをさせてしまったね」
「良いのよ。お國の為だもの、仕方が無いわ」
苦笑した雪ちゃんはとても辛そうに見えた。そして、先程きちんと顔を見れていなかったからか、今気が付いた。雪ちゃんが、俺が戦場へ向かう前よりも痩せ細っていた。
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