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 何日か経ったある日、縁側で一人茶を啜っていた。とても長閑だった。あんな血生臭い場所にいたと思うと吐き気がする。いや、それでも俺は仲間の為に勝ち取ったんだ。仲間の気持ちを踏みにじろうだなんて微塵も思っちゃいないが、しかしこことは比べてはいけないほどに凄まじい場所だった。人が次々に死んでいく。それを横目に俺は、猪突猛進、イノシシの如く。とにかく生きるのに必死だったんだ。銃剣を構え、砲弾をかわし、敵にぶち当たりながらも続々と殺めていった。その様を思い出すだけでぞっとした。  すると、横から雪ちゃんが顔を出した。手には盆を持っていた。  「何をお考えですか?」  そう言いながら、茶菓子を俺の横に置いた。くすりと笑った雪ちゃんの頬には、痩せ細っている為、笑窪がくっきり見える。  「い、いや。何でもないよ」  「そうですか?」  雪ちゃんは苦笑交じりに俺の横に座った。すると、雪ちゃんの足元に猫がやってきた。  「あら、猫様。おいでなすったのね」  「その猫って」  「いつもこうして甘えに来るの。可愛い物でしょう?」  猫と戯れる雪ちゃんを見ると、不意に涙が出そうになった。長閑で平和な時間だと思ったが、彼女の微笑みを見るたびに、何故か切なく感じてしまうからだ。  俺はついに彼女に聞いた。  「なあ、雪ちゃん」  夕食。食卓を囲んで二人で美味い飯を食べていた。そばには猫まんまを頬張る猫もいた。  「何ですか? ひいちゃん」  「どうしてそんなに痩せているんだい?」  「あら、気付かれてしまったわね」  ふふふ、と笑い、袖で口を押さえている。いつも通りの雪ちゃんだが、どこかか弱く、何かが違うようにも感じた。  「気付かれてしまったって?」  「ふふ、内緒よ。内緒の方が、素敵でしょ?」  悪戯っ子の様な笑みを浮かべている。  痩せている割に、普通の量を食べているようで安心したが、時節咽て苦しそうになるたびに病気なのではないかと心配になって食事どころでは無かった。俺は、ただ心配で、雪ちゃんの背中を優しく擦っていた。猫はか細く、「にゃあ」と鳴いた。
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