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 鮮やかな青空が広がっている。青い草木が空に映えてとても綺麗だった。  そんな日、雪ちゃんがいつもよりも多く咳をしていた。苦しそうなそれを聞き、俺は背中を擦ってやる。  「ありがとう」と掠れた声で雪ちゃんは礼を言った。  「今日は少し休んだらどうだい」  家事は俺がやるから、と俺が言うが、大丈夫の一点張りで休もうとしなかった。  せっかく二人きりで、戦争帰りだが彼女の手伝いでもしようと思ったのにもかかわらず、彼女は「ここに立って、料理を作って、貴方に振る舞って、美味いと言わせることが私の生き甲斐なのよ。」と言って厨に立っていた。包丁がまな板を叩く音が鳴っている。  猫は座布団の上で退屈そうに欠伸をしている。  俺も座卓に顎を乗せて少しうつける。  数十分ほどその状態が続いていた。すると、雪ちゃんが「起きて下さいな、ひいちゃん」と優しく起こした。  「あ、ごめん。寝てた?」  「ふふ、呆けてらっしゃいましたよ。お夕飯が出来ましたよ、さぁ、食べましょう。」  盆から皿を、優しく座卓へ移した。  合掌し、「いただきます」と言った。勿論、猫にもご飯をあげ、がっついている様子だった。  二人でゆったりとした時間を過ごす内に、この時間が永遠になればいいのに、と願った。  もう戦争はこりごりだ。二度と出たくない。大事な命が一瞬にして奪われる様を、もう二度と見たくないのだ。戦友もさぞかし辛かったろうに。    戦争で出来た傷は既に癒えていたが、雪ちゃんは「念には念を」と言って、俺の体に包帯を巻いた。抉り取られたかのような生傷が微かに残っていた為か、巻いている最中少し痛かった。けれど優しく巻かれる度に、気持ちが穏やかになっていった。  雪ちゃんは俺の体の包帯を変える時でさえ、咳をしていた。喉からひゅうひゅうと音がしている。  「大丈夫かい?」  「ええ、大丈夫ですよ」  掠れた声で返事をする。とても心配でならない。  寝る時も、ちょっとの動きで心配になるほど、俺の心は乱れかけていた。
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