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ああ、眠れない。眠りたくない。
私は私を手放したくない。
……どうしたらいい?
昼も夜も関係なしに寝たきりのせいで、頭も背中も痛い。前までは一日中寝ていたいなんて思っていた時期もあったが、これはこれで辛いものだ。
少しずつ体勢を変えながらじっと心電図の音を聞いていると、廊下をパタパタとサンダルで歩く音が混じってきた。夜の巡回だ。間もなく、看護師が病室に入ってくる。私は寝たふりでもした方がいいだろうかと悩んだが、今日の夜勤が比較的気の合う看護師だったことを思い出してやめた。
「あれ、まだ起きてたんですか」
カーテンの内側へ入って私を見るなり、看護師はそう言ってモニターや点滴をチェックし始めた。私も、眠れなくて、とだけ返す。他の看護師であれば睡眠薬の処方をすすめて業務に戻りそうなところだが、彼女は違った。
「あらら。最近ただでさえ暑くなってきて寝苦しいですもんね。私も寝つきが悪くて困ってるんです」
彼女との世間話は、私が病人であることをほんのちょっと忘れさせてくれる。それが心地よかった。
「そういえば、さっきチラッと見たんですけど、今日の月は大っきくてすごく綺麗でしたよ」
………ほう。
そう言われると見たくなってしまうのが私だ。
私はここぞとばかりに、その月を見せてほしいと彼女に頼み込んだ。
彼女は最初、しまった、という顔をしてからしばらく反論を繰り返していたが、私が折れそうにないのがわかると、しぶしぶ廊下から車椅子を持ってきてくれた。リモコンでベッドごと身体を起こし、車椅子に乗る。それを彼女は、さすが看護師、という力強さと手際で支えてくれた。
彼女は、この部屋からでも見られるはず、とつぶやきながら窓際まで車椅子を押して、そっとブラインダーを上げた。
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