鏡像

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鏡像

 それは、特に何の変哲も無い朝のことだった。  気付くと、私は部屋の壁際に佇んでいた。痛みは無いけれど、何だか頭の中がひどく霞んで荒れている感じがする。    垂れてきた長い前髪越しに、額を手で押さえる。少し冷やっこい指先が熱を奪っていくのを感じながら、とりあえず、暫く私は立ち続けることにした。  子供の時から朝は滅法苦手だった。瞼が落ちやすいというか、どうも布団の中で目が覚めてから一時間程は、夢と現実の区別が付かないというか、自分が座っているのか立っているのかも分からない事が続くのだ。  その時間の間は、気付けば何度も寝落ちしていて、非常に高速で不思議な夢を見る事もしばしばだった。家族と朝食を何とか摂って、洗面台へ行こうとしたその時に急に家の廊下が伸び始め、解けていくフローリングの先に空に向かって螺旋状に蕩けていく街が見えて、何が起きたか分からず瞬きをしたら良く分からない人影が手を差し伸べてくる。     
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