4 父と母

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――アオキは幼いころから身弱でよく風邪をこじらせては熱を出しており、大人になるまでもたないであろうとも言われていたが、僧侶に湯治を勧められ山奥の温泉が湧く村へ静養のために赴くことにした。  七つのアオキは牛車に乗せられ身重の母親代わりの乳母と一緒に温泉村に向かう。  幼いアオキには重い身体とすっきりしない頭の中のせいで、この湯治にも心が動かさせることはなく、ただ言われるままやってきているに過ぎなかった。  供のものは乳母以外に、使用人二人、警護のものが一人で少人数であったが、その村に湯治にやってくる者の中では豪奢で村人の目を引くだろう。知らせを受け取っていた村長がアオキを出迎えるべく村の入り口で待っている。一番上等な着物を着ていたが、それでも使用人より質の低いものであった。  この村は実は先の戦乱で敗戦した者たちの隠れ里でもある。効果の高い温泉が湧いている場所に逃げ隠れたおかげでここの村人たちはひっそりと質素に、しかし健康的に暮らしているのだ。  アオキの曾祖父はこの地方の権力者であるとともに先の戦乱で暗躍をしていた。政府転覆を狙っていたが、目論見ははずれてしまう。  表立っていなかったので彼自身が権力を剥奪されることはなかったが、その時の敗戦者たちを保護し、かくまい続けている。アオキの父の代にはもう敗戦者を探し出し、処罰を与えることは無くなっていたが、村人たちはひっそりと息をひそめて排他的な生活を送り続けており、アオキの一族は代々この村を保護するようになっている。
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