2 とりかえばや

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「宮様のところへ参るのは年が明けてでしょう? まだ三月以上あるわ。その間になんとでもなるわよ。もし私が参ったらどんな粗相をするかわかりませんよ?」 「クチナシ! お前という娘は。この父を脅しおって」 「嫌なものは嫌です」 「お前を、甘やかしすぎたわ……」  赤ら顔をますます赤くさせマサキは扇を握り込んだが、それ以上父親の権力を見せつけることはしなかった。今まで断った縁談とは違い今回は皇族からの申し出である。断ることは家の存続にもかかわることであるし、クチナシの言うように嫁いでからの粗相も程度によろうが一族に影響しかねない。 「で、お前にも話しておかないとね。名は?」 「ミ、ミズキと申します」 「歳は」 「十七になったところです」 「あら、同じじゃない。ちょうどいいわね。実は私に身分の高い方から妾に参れと言われてるのよね。皇太子候補だから相当高い身分だし、地方受領の娘にとってはかなりいい話なのよね」 「はあ……」 「でも、嫌なの。私は心から愛する人と一対一の夫婦になりたいの。宮様にはすでに正室も、側室もおられるのよ」 「馬鹿なことを……」  目を輝かせながら話すクチナシにマサキはため息をつく。一夫多妻で、身分と経済状況によって婚姻なされることが世の中の常識であるのに、風変わりな思想を持つ娘にマサキはめまいを覚える。 「人ってそのように差があるものでしょうか? お優しければいいのでは? どんな理由であれ夫婦になるのは縁ではないでしょうか」 「へえ。ミズキはそう思うの……。じゃあ、ちょうどいいじゃない。私の代わりに宮様のところへいって頂戴」  にっこりと笑みを見せるクチナシにミズキはしまったと思ったが後の祭りだった。  苦渋の表情を見せるマサキにクチナシはどんどん話を進め、ミズキは三か月間クチナシのもとで花嫁修業をすることとなってしまう。そしてマサキの娘として次期皇太子候補のニシキギの妾となることになった。
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