3 告白

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 毎日のクチナシによる礼儀作法や文字の書き方、琴や琵琶の演奏法をミズキは水を吸う乾いた地面のように吸収していく。  主人のマサキはすぐに飽きて投げ出し、クチナシ自身がニシキギの元へ参ることになるだろうと淡い期待を寄せていたが、彼女はメキメキと教育者としての頭角を現してしまう。 「ミズキ……。あなたすごいわね。この前まで下働きの娘だったとは思えないわ」 「いえ、クチナシ様のおかげでござりまする」 「もう、教えることはないわね。どこから見ても貴族の娘だわ」  ミズキはクチナシと並ぶと双子の姫のようである。二人に違いがあるとすれば、クチナシは明るく強い日の光のような笑顔を持つがミズキはひんやりとした優し気な三日月のような微笑みを持つ。身内の者や、一日中そばにいる女房でもない限り、二人の違いを見分けることは難しいだろう。御簾越しではマサキでも区別はつかない。  ミズキの仕上がりにマサキも呻く。屋敷のものでクチナシに縁談の話が来ていることを知るものは、マサキとクチナシと彼女の乳母のみだ。以前、縁談の話が舞い込んできた時には屋敷中の者にめでたき事ということで祝いの席を設けたが頑ななクチナシが行かないと言い張りその話は流れた。そのことがあって縁談の話が来ても、破談になった時のばつの悪さ故、マサキは誰にも告げることがなかった。  ミズキは仕事を屋敷内の女房どもの雑用に変えたと使用人頭に告げてあるので、彼女がこの屋敷から消えても誰も気づかないだろう。つまり、クチナシとミヅキが入れ替わってもそれを知るものは本人たち以外に居ないのだ。
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