3/4
前へ
/18ページ
次へ
僕にはもう、手首を擦り合わせることしか出来ない。いつかは紐が切れてくれるのではないかという微かな希望を持ってひたすら手首を擦り合わせ、手の甲に食い込む紐をちぎろうと力を込める。 ひたすら。ただひたすらに擦る。 すりすりすりすりすりすりすりすり。 すりすりすりすりすりすりすりすり。 すりすりすりすりすりすりすりすり。 5分くらい経っていたと思う。僕は一瞬意識を失いかけた。 クラクラとしている。息が荒い。目眩がする。きつい。ただでさえ酸素の薄いこの棺桶の中でひたすら体を動かしているのだ。酸欠にでもなったのだろう。 壁に寄りかかる。息を整えるために深呼吸をする。僕の左手に何かが刺さった気がした。 なんだ?何が当たった? 僕は手探りで何かを推理する。表面は凹凸があり、先が尖っている。硬い。細く、指の第二関節当たりまでの長さが壁から突き出ている。そしてその棒状のものにはなにかが吊り下げられている。紐がついている。 わかった。これは釘だ。何が吊り下げられているかなんて皆目見当もつかないがそんなことはどうでもいい。これは使える。 手首にかけられている紐をその釘にひたすら擦りつける。ぴんと張った紐に凹凸がうまく引っかかり、紐にダメージが蓄積されているのが感じられる。 外からの衝撃や暗闇の恐怖、体の痛みなんてすべて忘れるくらい一心不乱に紐を擦り続けた。この紐がなくなれば僕に自由は与えられると信じている。そしてここから脱出して熊田にありとあらゆる苦痛を与えてやりたい。流石に今回は我慢の限界だ。やりすぎだ。 脱出のために僕はひたすら擦る。擦る。擦る。擦る。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加