遺言状

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 ここの病院の斎藤先生は、森村土建の嘱託医も兼ねているのは、お前たちも知っているだろう、その斎藤先生から私が癌である事を告げられた。  三年程前の事だ。  健康診断で癌が発見されたのだ。何度かお前たちに悟れないように手術をしたが、再発はおさえられなかった。  そして二年前、余命宣告がされた。  目の前が真っ黒になった。  私は狼狽えた、この先どうすべきか考えたが、一切答えは出なかった。  ひとまず経営を安西に任せると、始めて長い休みをとって自分と向き合った。  そんなとき、斎藤先生からとある施設の話を聞いた。  親をなくした子どもたちを引き取って育てている民間の施設だ。寄付や政府の助成金で経営をまかなっているが、建物が老朽化して改装できなくて困っているという事だった。  先生にしてみれば、狼狽えている私を見かねて、何かに熱中させてやりたいという親心だったのかも知れね。
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