3人が本棚に入れています
本棚に追加
七夕は曇りか雨降りが多いというけれど、今年は梅雨晴れだった。
桜と智司はまた、シネコンに来ている。
ゴールデンウィークが明けて以来、桜は毎週末のデートを彼に強要していた。
大学の授業もほぼ同じ選択なので、毎日のように一緒にいる。
彼が幼なじみの知代と顔を合わせる機会も減っただろう。
桜の顔には交際を始めた頃のような笑みが戻っていた。
これから観る映画は、幽霊になった男性が心を残した女性を陰ながら助けるという、智司の好む現代ファンタジーだ。
見終わった後は彼の家で、夕食をご馳走になる約束を取り付けている。
「母さんが昨日から張り切っちゃって」
晩飯が楽しみだと言いかけた智司が、前のめりによろめいた。
突然、後ろから背中を突き飛ばされたのだ。
「智司、何してんの? ぼうっとして」
ストレート・ロングの女性が、彼の腕を掴んで引き上げる。
そのまま巻き付くように腕を絡め、体を密着させた。
「知代か。いきなり後ろからどつくなよ」
「ごめんね、デート中だって知らなかったから」
彼女はうっすらと化粧をしていて、ずいぶんと大人びて見える。
最初のコメントを投稿しよう!