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智司は桜に、「俺の幼なじみだ」と紹介した。
「美園知代です」
会釈のついでに身を屈め、彼の腕にブラトップの胸を押し付けた。
髪が逆立ってくるのが分かる。
知代は腕を抱きしめてから離し、身を翻してふたりから遠ざかる。
「邪魔しちゃったかな。智司、今度は上手くいくといいね。じゃ、ごゆっくり」
知代は背を向け、足早に住宅街へと続く坂道に向かった。
明らかな宣戦布告に、桜は茫然と立ち尽くす。
脈打つ音が耳に響く。
智司が後ろ姿に手を振っているのを見て、桜は我に返った。
「幼なじみだっけ? 本当に仲が良いのね」
彼女の声に含まれる棘に智司は気づかない。
いつもの癖で頭の後ろをかいた。
「映画の前にお茶でもするか」
「するわけないでしょ。智司なんて知らない!」
顔に向かって言葉を叩きつけた。
彼はまるで、はたかれたように手で頬をおさえ、目を見開く。
どうして桜が怒っているのか、理解できないようだ。
呆然と立ち尽くしている。
桜は知代の後を追った。
智司は追い掛けてこない。
彼女は振り向かなかった。
坂道の上に入道雲が聳え立っている。
桜は足を踏み鳴らし、嵐に向かって突き進んだ。
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