ひとすじの煙 (Smoke, Get in her eyes !)

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見るはずだった映画が始まる時刻、桜は古い蔵を改装したカフェで抹茶フラッペをつついていた。 向かいの席には智司の母、直美がいる。 「知代さんは智司を産んだ、実の母親。20年前、事故でお亡くなりになったの」 「美園知代が智司のお母さんだ、と言うのですか」 ふだんの桜なら、「冗談ですよね」と、声を上げて笑うところだった。 だが桜は知代を追っているうちに、ありえないものを見ていた。 「あるはずのものが、見えなかったんです」 7月の太陽がまばゆい光を投げかけているのに、知代には影がなかった。 「幽霊、ということですよね」 桜が尾行していくと、知代は坂を下りてくる日傘の女性に会釈した。 相手も頭を下げる。 短い言葉を交わして、ふたりは別れた。 桜は立ち止まって、知代の知人が通り過ぎるのを待つ。 ところが日傘の女性は彼女の前で足を止めると、声を上げた。 「桜さん? 智司は一緒ではないの」 日傘の女性は、直美だった。 桜は返事に困った。 正直に、「あの優柔不断男は捨ててきました」とは答えられない。 智司の母親は、不思議なことを聞いてきた。 「もしかして、知代さんが見えるの? デートの邪魔でもされたのかしら」 当たりだ。 体が震え出し、夏なのに歯が鳴った。 そのあと直美に、「今、ちょっといいかしら」と、ここへ連れて来られたのだ。
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