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智司の母親は水ようかんを口に入れると、目を細めた。
「誰にも言えずにいたことを話し合える相手ができて、嬉しい」
「美園知代は幽霊であり、彼の幼なじみである、ということですか」
「智司を産んだ母親の名は、知代。結婚前の名字が美園なの。亡くなった知代さんが、智司の幼なじみを装っているの」
桜の問いに、直美はそう説明した。
「息子がかわいくって、しょうがないのよ。きっと」
直美が智司の父親と結婚したのは、彼が5歳の時だった。
「ひと月ほど経ったころ、謎の女の子が現れたの。そう、知代さん」
智司は『知代』が目の前から去ると、すぐに記憶がぼやけてしまうらしい。
父親の前には、姿を現さないのだという。
「私だけが、ずっと憶えている。……変よね」
「完璧に、幽霊じゃないですか。『智司は私のもの』という、悪霊ですよね」
「知代さんが悪霊だったら、私なんかとっくに呪い殺されているでしょう? 呪うとか、祟るだとか、そういった力は持っていないのね」
両手で頬を挟むと、直美の端整な顔が歪んだ。
「知代さんがさっき、なんて言ったと思う? 『桜さんの晩御飯はいりません。あのふたり、別れ話をしていたから』ですって」
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