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桜の口から、思わず声が出た。
「はあ?」
「陰口よ。あなた達を別れさせるつもり」
直美が溜息をつく。
「考えてみれば、それが『呪い』や『祟り』と言えるかもしれない」
水出しの玉露で喉を湿らせた。
「どうしてそんなことをするのでしょう」
「知代さんの悪いくせ。智司のことが心配でたまらないのよ。自分の産んだ子供だもの」
言葉を切ると、直美は手元の茶碗をのぞき込んだ。
「お腹を痛めたことのない私には分からないけれど」
直美は、「とけちゃうわよ」と、桜のグラスを指さした。
ストローを吸うと、抹茶フラッペがのどを通る。
アイスクリーム頭痛がきんと響いて、涙が出そうになった。
「ライバル出現かと思えば、亡くなられた実の母親だったなんて。勝てっこありません」
「そうかしら。危機感を覚えたから、桜さんの前に姿を見せたのではなくて」
息子の交際に母親が口を出すこと自体が、おかしい気がする。
この世にいない人に交際を邪魔されるなんて、理不尽な話だ。
「知代さんは、きっと子離れができないタイプね」
直美の分析を聞きながら、桜は必死に考えた。
頭痛が去ると、ひらめきが浮かんだ。
「ご相談があります。聞いていただけますか」
桜は身を乗り出した。
店の入口ちかくに置かれた豚の蚊遣りから、ひとすじ煙が立ち昇っていた。
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