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ひとすじの煙 (Smoke, Get in her eyes !)
ゴールデンウィーク最終日、夷子大学3年の辻本桜は吉野智司とシネコンへ行った。
ブランチの後に見たのは、智司が好むハッピーエンドなSF映画だ。
桜は彼の肘につかまりながら映画館を出た。
館内の冷房が効きすぎていたせいだ。
途中で智司のジャケットを借りて羽織ったが、まだ腕に鳥肌が立っている。
気を緩めるとくしゃみが出そうだった。
「明日は一限からだよな? うちで休んでいくか」
智司は返事を待たずに携帯電話を取り出した。
「母さん、今から友達を連れてっていいかな」
背を向けて立つ智司の声音はいつもと変わらないが、首筋は赤く染まっていた。
「誰って、辻本さん。このあいだ話した彼女だって」
素早く、ショーウィンドウに映る自分の姿をチェックした。
白地に花柄のワンピースは、清楚な雰囲気を演出している。
桜は洋菓子店でチーズケーキを買うと、紙袋を左手に提げた。
右手は智司の肘に絡める。
しっかりとつかまっていないと、体が空へと浮き上がりそうだ。
ふたりは住宅街へ続く、なだらかな坂道を登った。
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