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「人柱が決まったぞ、壱代(いちよ)ではなかった!」 「本当ですか貴方、よかったね壱代」  その言葉を聞いて、ほっとした一方で、また胸のあたりに痛みを覚えた。しかし今はそれ以上に、誰が選ばれたのだろうと、気がかりになった。 「とうさん。誰が選ばれたの?」 「壱代、落ち着いて聞け。雪菜(ゆきな)ちゃんだよ」 「う、嘘……」  私は目の前が真っ暗になった。あの時あんな事を願ったから?それとも雪菜が私に願ったから、罰を受けたの?頭の中が整理できずに、ぐるぐると巡り、混乱していた。 「あそこは子供がなかなか出来ず、やっと出来た一人娘だったのに。神様も酷な事をなされる」  その言葉が、私の心に何か鋭利な刃物で、突き刺されたような感覚を味わい、息苦しさに一瞬目の前が暗くなったような、錯覚に陥っていた。  その日、私は眠れないでいた。  あの日の雪菜の顔が、頭から離れなかった。  両親の言葉の裏に気づいてしまった。  こんな時は、鈍感でいられたら、どんなによかっただろうと、そう思った。  父親に聞いた話だと、選出は、群司(ぐんし)様が候補になる、娘の名を書かれた札を、裏向きにして無作為に選んだのだと聞いた。  そんなことで、人の命を測るのかと憤っていた。命の選択を自分で出来ないなんて、そんな事を考えた時、ふと思っていた。 (そうだ、自分で命の選択をすればいいんだ)  と。
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