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「そうだよ、病気なのはね、──お父さんのほうだから」
槙村は手に持つ血に濡れた包丁を、顔の高さまで上げると、虚ろな目で刃を眺めた。刃元からポタポタと垂れる滴がカーペットを濡らす。
傍には、今し方絶命したばかりの妻と息子が血にまみれて倒れている。
「ごめんな......お父さんの病気、治らないみたいだ──」
そこで初めて幽霊になった裕太の表情が、少し曇ったように見えた。
「ただいまー」玄関から元気一杯の声が聞こえた。娘が学校から戻ったようだ。
槙村は裕太に耳打ちをする。
「そんな顔をするなよ、お姉ちゃんもすぐにそっちに行くから、──寂しくないよ」
裕太の顔は、はっきりと恐怖で歪んでいた。
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