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我ながらひどいことを言ったな、とは思う。
彼氏とかいるんですか?と聞く女の子に
「誰とも付き合ってないよ」
と、みんなには内緒の彼氏の横で答えたのだから。
その男と付き合うことになったのは単なる気まぐれで暇だったからだ。付き合うことになったその夜、
友達の主催のイベントに一緒に行った。
その時ダンサーの女の子二人の後を歩く、クラブでは見かけることのないタイプの創から目が離せなくなってしまった。
ダンサーは知ってる女の子だ。きっとあの子の彼氏なのだろう。
彼女がいる男に興味はないけど、自分に彼氏がいることは創には知られたくなかった。
だから彼氏に言った。
「しばらくは付き合ってることみんなには内緒にして。なんか恥ずかしいから。」
ちょっと寂しそうな顔をしていたが「いいよ」と答えてくれた。
それからは暗いホールの中、ずっと創を目で追っていた。自分を見ずに創ばかりを見ていた私に彼氏は気づいていたと思う。
でもそれを認めたらこの恋は終わると感じていたのかもしれない。彼氏は何も言わなかった。
そしてカウンターで聞かれた。
彼氏いるんですか?と。
ほんの数時間前に付き合うことになって喜んでいる彼氏の前で「誰とも付き合ってないよ」と言った私をどんな思いで見ていたのだろう。
でもそんなことはどうでもよくなるくらい、創のことで頭がいっぱいだった。
それとなく創の情報を集めた。
名前は創、彼女はダンサーの美穂、年は私より11才下、
彼自身もダンサー、DJなどもやるバンドマンで、
パートはパーカッション。
あんな真面目で神経質そうな、医学部から出てきたような男がダンサーなんてすぐには信じられなかった。
彼氏と部屋に戻ったあと、
「ごめん、やっぱり付き合えない」と言った。
とても怒っていた。それはそうだろう、なんども告白してやっとOKをくれた女が数時間後に別れたいと言っているのだから。
でも私はもう創のことしか考えられない。彼女がいたって別れるまで待つつもりだった。
クラブの隅で初めてみた創を絶対に自分のものにしたいと思った。
早く美穂ちゃんと分かれればいいのに。
その願いは思ったより早く訪れた。
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