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クラブはあまり好きではなかったが、創がいそうなイベントには必ず顔を出していた。
どんな小さな情報でも、創のものなら欲しかった。
その甲斐があって、ひとこと二言は話をする機会もあったし、名前を覚えてもらえた。
とにかく毎日どこでなんのイベントがあるかを調べ創を探した。
そんな事を繰り返していたある日、大きなイベントで美穂ちゃんと偶然会った。
にこにこと笑いながら、
「真波さーん!」と声をかけてきた。
「聞いてくださいよー。私、創にふられたんですよ。しかも女がいるとかじゃなくて、ただ別れたい、って。めっちゃ女下げられましたよー。いい男いたら紹介してくださいね!」
美穂ちゃんのその話を聞いていた時の自分の顔を見られるものなら見てみたい。どんな顔をしていただろう、私は。
それから数日後、クラブの階段で創と会った。
先日美穂ちゃんと会ったことを言ってみた。
「ふーん、そうなんだ。でも俺、美穂と別れたんだよね」
知ってる。
知ってるからわざと言ってみた。
そんな心の声を押し込めてわざと驚いてみせる。
まるでいま初めて聞いた、という顔で。
「あら、そうだったんだ。
明日のHIDEさんのイベント、行く?」
『うん、行くよ』
「私も行くから現地で会えるね」
『誰と行くの?あそこ遠いでしょ。俺は矢野くんの車で行くよ』
「わたしはひーちゃんと車で」
『そっか、じゃあまたその時だね』
そんな会話を交わした。
もっと話もしたいし、連絡先も知りたい。
でも我慢。
できれば創が私に興味を持っている、と感じられるまで。
次の日、私はわざと遅めに行った。
暗い中でも創の姿はすぐに見つけられた。
「おつかれー、いつ来たの?」
『俺は矢野くんの機材運ばなきゃだったからオープン前からいたよ。』
「そっか、今日は創くんもなんかやるの?」
『うん、あとでちょっと踊る時間あるかも。これは叩くよ』
創の横にコンガやカホンなどが並んでいる。
『ドラムはさすがにデカくて持って来るの諦めた、矢野くんの機材もいっぱいだったし』
「そっか、楽しみだな、ダンスもパーカスも」
『うん、楽しみにしてて』
そう言って創は奥に入って行った。
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