出会い

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初めて踊っている創を見た。 雷に打たれたような、とはこういう事を指すのだろうか。 体が動かない。 細長くて、いつも黒い服に黒縁眼鏡の創は派手な人ばかりのクラブでは異質な感じがした。 違う世界からやってきた人みたいだ。 いつもは無表情な創がバトルで相手を挑発した。 涼しい顔はそのままに裏手招きで相手を煽る。 その手を見たときに、もうダメだった。 どうして?とかどこが?とかは関係ない。 理屈じゃなく、どうしようもなく好きだと思った。 ダンスが終わり、HIDEのDJが始まった。 ステージにぽつんぽつんと人が集まりだし楽器の調整をしている。 創も叩くと言っていた。 探すまでもなくまた創の姿が目に飛び込んでくる。 楽器の調子を見るように優しく叩いている。 とてもきれいな立ち姿だった。 暗くて顔はよく見えないが、そのフォルムで創とわかる。 場も盛り上がり、楽器を叩く手も激しくなっていく。創の音以外何も聞こえなかった。 創だけを見ていた。 創の叩く手を見ていた。 その手に触りたい、と思った。 私はいったい創に何度一目惚れをするのだろう。 違う創を見るたびにどんどん好きになってしまう。 穏やかで静かな声で話す創と、 踊る創、楽器を叩く創は別人のようで息を止めてずっと見ていた。 惹かれすぎて心臓が痛くなる。 どうしたらいいんだろう。 「ねえ、創くんのカポエイラすごかったね」 ひーちゃんが話しかけてきた。 ひーちゃんは私の彼氏だった人。 気まぐれやワガママで困らせた私をまだ好きだと言ってくれる優しい人。 でも私にとってはもう過去の人。 なのに私は都合よくひーちゃんを呼び出して連れまわす。それでも、もしかしたら?という希望を捨てずに私のそばにいる人。 でも邪魔になっちゃった。 もう要らない。 2人で帰るのはいやだな、と思った。
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