空虚

2/6
前へ
/6ページ
次へ
私はある時、多くのモノを失った....。 夢、希望、可能性、大切な人達ーー。 そこには色々なモノがあるが、それがある日を境に次々と失われていった。 きっかけは父が鬱を患った事。 父は感情的になりやすい人だったが、明るく笑顔の絶えない人だった。 そんな父が鬱を患ったのは、私がゲームデザイナーになる夢を追い東京へと、上京していた時である。 それは私が夢を追っていた最中の事。 不意に私の携帯に母から連絡があった。 その連絡とは、父が風呂場で自殺しようとしたという内容。 だが正直、その連絡を受けても私には、それが現実だとは思えなかった。 何故なら私にとって父は、明るくて不器用ながらもガムシャラに頑張るーーそんなイメージの人だったからである。 そして、面倒見の良い人だった。 私は我が耳を疑いながらも一度、父の様子を見に東北へと帰る事にしたのである。 しかし、実家へと戻り病院に赴いた私の前に、私の知らない父が待っていた。 かつての明るい笑顔もなく、虚ろな瞳で現実以外の何かを見詰める父。 父は姿こそ、かつての父だったが中身は最早、脱け殻だった。 父がそうなった理由は、あるネットワークビジネスにのめり込んだ事。 父はそれを転職だと誤認し、無理な業務を続けた結果、手をつけてはいけないお金まで使い果たし燃え尽きたのである。 そして、自分の行いに責任を感じた父は責任に押し潰され、死を選んだ。 それが自殺未遂の経緯ーー。 だが、私は信じていた。 また皆で一からやり直せば、大丈夫だと。 それは多分、母や弟も信じていたに違いあるまい。 そんな思いで私と母、弟は父が復帰するまで、家業である飲み屋を手伝う事にした。 しかし、悪い時には悪い事が続くものである。 そんな中、家族同然に過ごしてきた愛犬が、車に引かれて死んだ。 十数年共に過ごした愛犬。 愛犬は、首の骨が折れていたが母の顔を見るまで意識を保ち、母の顔を見るなり最後の力を振り絞り、小さく鳴き声を上げた。 それが愛犬との別れーー。 同然の事ながら、愛犬の死を知った父はショックを受けていた。 そして数週間後、私は再び東京へと戻る。 理由は自分の夢を叶え、早く父や母を楽にする為。 それと父を含む家族を信じていたからだ。 頑張れば必ず、報われるとーー。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加