空虚

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幸い、少女は穴に入り込んでいる形であり、命に別状はないようだ。 しかし、瓦礫が崩れたら少女は間違いなく命を落とすだろう。 「今、助けるからな!」 私は必死に瓦礫をどかし続けた。 無数の瓦礫。 それを細心の注意を払いながら、どかし続ける事、数十分..。 漸く私は、少女を引き上げれる状況へと辿り着く。 (後少しだーー!) 私はもう見たくなかった。 誰かの死を....。 もう誰かの死を見るのは耐えられなかった。 だから、一つでも目の前で誰かが死なないようにしたかったのである。 見え始めた僅かな希望。 だが後少しで少女を引き上げれるであろう瞬間、不意に真上から小さな欠片が落ちてくる。 (まずいーー!!) 私には、それが何を意味しているか直ぐに分かった。 屋根が崩れ落ちようとしているのだ。 そして、屋根が崩れ落ちれば私も少女も確実に死ぬ。 しかし、もし私が今、少女を掴む手を離したなら私は確実に助かるだろう。 だが、迷いは無かった。 私は少女を抱き上げ、一気に引き上げる。 時間との勝負だった。 そして、少女の身柄をを安全な場所へと移した直後、私の背に衝撃が走る。 その瞬間、息が詰まり鉄臭い血が口内を埋め尽くす。 もう、周囲はうっすらとしか見えず暗闇のみ。 だが、ほんの一瞬、少女が無事である事だけは確認でき、私は少しホッとしていた。 体から血が失われるのを感じる。 それは死が近づいているという事だろう。 周囲は暗闇だけ....。 そんな中、僅かに聞こえてくる声ーー。 「叔父ちゃん、死んじゃやだ..。」 悲しみに満ちた声....。 私はその声を聞き、死ぬ事の意味を実感した。 幸せを実感した事はなかったが、私の人生は無意味ではなかったとーー。 今、ここに私の思ってくれる者がいる。 私の死を悲しんでくれる者がいるのだ。 そして、この少女がこれから私の分も幸せになってくれるに違いない....。 だから、私の人生は無意味ではなかったのだろう。 その死の一瞬、そこにほんの僅かだが、満ち足りた何かがあったーー。 満ち足りた何かが....。 そんな温かくて、心地好い何かーー。 私を最早、感覚の無い体で微笑む。 そして、その直後、私の意識は闇の底へと沈んでいった。 こうして、私の人生は終わりを迎えたのである。 だが、悔いや後悔はない。 私の人生には、意味があったのだから....。
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