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後熱
ザーザーと音を立てて大雨が降る。
これは河が氾濫しやしないか心配だなぁと外の様子を見に出た時。
「清文さん!お手紙持ってきた!」
「おー椿ちゃん、よく来たね」
こんな雨の中でも、椿ちゃんがお手紙を持ってきてくれたということは、俺はあんな醜態を晒したのにまだ桜さんには嫌われていないらしい。
いや、遊女の世界はそんな簡単なものでもないだろう、きっと俺は寝ないで済む夜を提供するだけの男だ。
「清文さんは桜姉さんのこと好き?」
「どうしたの急に?」
「椿は桜姉さんと清文さんに結婚してほしい!」
「結婚!?」
結婚という言葉をこんな幼い子がどうして知っているのだと驚いたが、それはそうだ、あんな厳しい女の世界に居るのだ、こんな幼い子でも立派な女性なのだ。
「椿ちゃんはどうして俺と桜さんに結婚して欲しいの?」
桜さんに惚れている俺にとって、椿ちゃんにそんなことを言われるなんて事は、嬉しい気持ちも確かにあった。
でも、遊女の身請けの額は、とてもじゃないが、ただの小さい商社の若旦那というだけの俺には出せない。
「清文さんが来ると桜姉さんは安心するの、会えたってだけで安心してるの、安心してるけど顔が赤くなっちゃってお化粧し直すの、それって好きってことでしょう?」
「……」
少し。少しだけ、俺は自惚れても良いのだろうか。
「ねぇ清文さん、桜姉さんと結婚してね!」
「……うん、絶対結婚する」
「約束だよ?」
「約束」
ちゃんと桜さんの気持ちが知りたいと思った。
雨はまだ止まない。
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