後熱

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「清文さん、よく来て下さいました、ありがとうございます、あら、椿が居ないわ」 「椿ちゃんには俺がお願いして下がってもらってます」 「そう、だったんですね」 少し緊張してきてしまった。 気持ちを清文さんに打ち明けると決めて文を出し、そして今夜清文さんが来てくれた。 「桜さん」 「はい!」 「今、考え事してましたね」 「ええ、大きな返事をしてしまってすみません……びっくりしてしまって……」 「何を考えていたんです?」 言ってしまおうか。 言ってしまっては神様は見逃してくれないだろう。 でも、でも。 「桜さん、この前の続きを俺から話したいんですが、ダメですか?」 「この前の続き?」 (「俺は桜さんの笑顔が見たいと思っているのに、気付いたら貴女に笑顔にさせられています」) (「いきなりどうしたんですか」) (「いいから最後まで聞いてください、桜さん、俺は」) (「やめてください」) (「……」) 「あっ、」 「俺の告白です」 「あの、でも、」 「桜さんが好きです、傷付いても確かな優しさを持っている強い姿や、でもそれは必死な強がりであることも、無垢であるが故に輝き、また傷付きやすいところも、全部好きで愛おしいんです」 「清文さん、あの」 「桜さんは、俺のこと、どう思ってくれてますか?」 「口にすればまた失うと思って怖かったんです」 「え?」 「神様は見逃してくれないだろうって、絶対心の奥底で私が求めてるものを見つけ出して、そして奪っていくって」 「桜さん」 「私の心の温もりは芙蓉姉さんでした、そして、清文さん」 「……」 「芙蓉姉さんが居なくなって、この温もりがまた消えてしまうんじゃないか、神様に奪い取られてしまうんじゃないかって、」 「大丈夫です、貴方の笑顔を守りたいんです」 怖かった言葉を今、口にする。 「……ずっと一緒にいたい……」 清文さんがその言葉で抱きしめてくれた。 「あなたと、ずっと一緒にいたいんです」 「約束します」 どちらともなく、口付けをした。 その日、初めて燃えるような恋情を、桜は身に宿した夜を過ごした。 素直の意味を知った桜。 こんなに苦しいのも、こんなに涙が出るのも声が出てしまうのも、貴方だけだと、桜は全力で清文を受け止めた。 最初で最後の一夜だった。
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