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優しい芙蓉姉さんは「ごめんね」とだけ、苦しそうに言っていた。
「桜、あんたに選ぶ権利はないんだ、明日からだからね」
「はい」
地獄でさらに深い地獄を見ることになる。
生きるため。
そう言い聞かせた。
初めての客は芙蓉姉さんのお客さんだった。
何も分からない。
どう見て、どう動いて、どう声を出していいのか、分からなかった。
ただ、生きる為なのに死にたいなんて、と思った。
「私からでさえ何も教えられない程、あんたは純粋だから、辛いだろう?」
「いえ、そんな……」
「桜」
芙蓉姉さんの前では、身体に障らないようにと、極力明るく振舞っていたかったのに、どうしても涙が出てきてしまった。
隣の椿が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「桜姉さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ椿、お前は優しいね」
「椿、桜姉さんの笑ってる顔が好きだから」
「そっか、ありがとう」
この可愛い小さい椿と、私たちを大切に大切にしてくれていた大好きな芙蓉姉さんを、どうにか生かす為、それだけを信念にしようと、この時心の底から涙ながらに思ったのだ。
客を取り始めて一月も経っていない頃、その男と出会った。
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