1人が本棚に入れています
本棚に追加
「誠二さん、この方は?」
「俺の幼馴染の古谷清文、商社の若旦那だよ~」
「辞めてよ、商社なんて言っても小さいんだから」
「清文さん、こういう所は初めてで?」
「ええ、まぁ……」
いつも遊びに来ては椿と仲良くしてくれる誠二さんが連れてきたその男は、古谷清文という若い精悍な青年だった。
不本意ながら連れてこられた、と顔に書いてあって、とても面白かったので、私は少し吹き出してしまった。
「桜さんめちゃウケてるやん~」
「だって誠二さん、清文さんのこと無理矢理連れてきたんでしょ?清文さんの顔に書いてあるわ」
「アホほど真面目やからちょっとは遊びを知らんと若旦那としては落第や!と思って」
「誠二には本当に時々本気で困ってるからな俺!」
「仲良しなんですねぇ」
その後、何回も2人で遊びに来てくれて、拍子抜けするほどお喋りしかしないので私も椿も楽しくて、そして、ホッとした。
「桜さんあやとりしましょう!」
「なんであやとりなんです?」
「椿ちゃんに教えてもらったので」
「椿、あやとりなんて出来たの?私出来るかな」
いつの間にか清文さんは1人で来るようになり、それでもやっぱり抱くこともせずにこうして遊んで行くだけ。
「このあやとりの紐、結び目が可愛いですね」
「蝶々結びですよ、ご存知ないですか?」
「見たことはあるけど名前も結び方も知りませんでした」
「じゃあ教えます!椿ちゃんも一緒に教えてあげるよ!」
「蝶々ー?」
とても有難い。
とても心が安らいだ。
でも、清文さんが帰ると、心の奥がモヤモヤして、そして、チクチクした。
何故抱かない?
何故触れない?
何を目的に私に会いに来てくれるのだろう?
この気持ちが、「彼に所有されたいのだ」というものだと自覚した瞬間、驚く程に、頬がカッと熱くなった。
「桜姉さん、どうしたの?風邪?」
お菓子をねだって膝に転がっていた椿が心配する程、その日は頬の赤はなかなか引かなかった。
その日以来、私は、彼が来る日を指折り数えるように、なったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!