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しかし、少年・・どんな年代よりも繁殖行為に心を動かされやすいというのに・・は、ワタシの求愛を受け入れようとしなかったし、当然ながら多くの男どもがそうするように、恋人を差し置いて別の女と繁殖行為にいそしむことも、良しとはしなかった。その少年の名前は、犬神明と言った。
あえていえば、ワタシは、その少年の一途さにこそ夢中になったのかもしれない。さらに、女教師青鹿は、少年の巻き添えをくって、人生がボロボロになった。少年の”狼の精”に反発し、破壊しようとする、性悪な人間はあまりに多いのだ。犬神明を憎む人間によって、女教師は何人もの男の餌食になり、彼の不死身の秘密を探ろうと彼を捕獲しようとした米情報局に拘束され、麻薬中毒にさせられた。
犬神明は、青鹿がそうなってしまったのも自分の責任だと思い込んでいた。
アホウだと思うが、あの少年は、そう考えるからこそ、犬神明なのだ。繰り返す、ワタシは、しかし、そんな純粋な、甘いヤツだからこそ、愛したのだ。もちろん、あんな年増の乳デカ女教師より魅力的な女だという対抗心がそこに無かったかといえば嘘になるが。
そして、とにかく、あいつ、犬神明はあろうことか、誰の子供かもわからぬ赤子を妊娠していた女教師青鹿の麻薬の解毒剤を、日本にある米情報局の東京支部に乗り込んで手に入れようと決断したのである。
麻薬中毒のままでは、母子共に死ぬと診断されたからだ。だが、そんな無茶が成功するはずは無いのに。しかし、あいつは決めたのだ。あいつは、死ぬつもりだと、わかった。あいつには、他に選択肢は無かったのだろう。だから、ワタシは、あいつに同行することに決めたのだ。
なぜか、
ワタシは、あいつなんかより、はるかにプロだからだ。
ワタシは、中国人民軍情報部特殊部隊、通称”虎部隊”の中で”その人あり”といわれる超凄腕工作員、”虎四”林芳蘭さんなのだから。
だが、ワタシたちが進入した敵東京支部は、ワタシたち・・中国情報部の入手した情報から・・想定した以上の”要塞”だった。むしろ、罠に掛かったのは、ワタシたちのほうだった。
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