虎四、虎四!

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 てぐすね轢いて待っていた・・というわけではないが、東京支部を仕切っていた前任者の対人恐怖症の権化、変態ドランケ・・結局、このマヌケは、部下の西城恵に裏切られて殺されたのだが・・は、自分で勝手に米本部にも知らせず、迷宮要塞化していたのだ。  でもって、ワタシと犬神明は、その罠につかまりそうになった。  ワタシは、犬神明を脱出させるために、その楯となったのだ。油圧で閉じかかる大重量の鉄扉に体を挟み込んで、耐え、そこを抜けさせた。  しかし、その完全無防備なところを銃撃されたのだ。  満月で体力最大ピークのときだったが、いかに”虎の精”である無敵のワタシでも、おのずから限界はあるわけで。ワタシは逃げそこなった。油圧の鉄扉に左半身手足を挟み込まれてしまったのだ。 ば、しゅ~~~ん・・ ワタシの左手の先だけが、犬神明の側に突き出た格好ではさまれた。 ワタシは、四の五の抜かして足踏みする犬神明を、追い出さねばならなかった。 同じ中国情報部の人間ならば、わたしの姿を見れば、一瞬で決断しただろうが、アマチュアの犬神明はためらったのだ。バカめ。 「とっとと、青鹿先生のところに戻らないか!」ワタシは、吼えた。 「しかし・・」 「そこでグズグズして、おまえまで捕まりたいのか?」 「俺が、その扉をこじ開けて」 「タワケか、”虎の精”のワタシでもダメだった扉だぞ。”狼の精”のおまえでは、ムリだ」 「だが・・虎四・・」まったく、アマちゃんだ。ワタシは少年のそこを愛したのだがな。だから、ワタシは決断するしかなかった。 「とっとと、行け、犬神明!」 「しかし・・」 「”不死身人間”の体を、きゃつらに与えるわけにはいかん」 「な、何をする。虎四!早まるな。なんとか、脱出方法を考えるから・・」 「最期に、可愛いおまえとこんな冒険ができて、楽しかったよ」その言葉は、自然とワタシの口からこぼれ出た。可愛いのだ。そうだ、あいつは、生意気のこの上ない、わからずやなのに、それが無類に可愛いのだ。まるで、大きな、泣き虫のように・・  そうだ。あいつは、きっと、ずっと泣いていたのだ。涙を流さずに、泣いていたのだ。小さな、子供のときから。それを誰にも悟られまいと、必死に、生意気、強がりを言って。  バカめ。そんなこと、とおのむかしにワタシには、お見通しだったのにな。
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