第四話「萌芽」

2/39
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 これまで、女性と見紛う美貌のレイに、元教師で温厚な一善、明るく陽気なハンク、優しいベイマックス似のトニーに無口で働き者のボブと、威圧感のない男性ばかりだったこの屋敷で、ライナスはその大柄で筋骨隆々の体つきも獅子舞に似た顔も、威圧感が服を着て歩いているような男で、つまりいちかが一番苦手とするタイプだった。  そんな相手の苦手意識も完全に無視し、ライナスは「それは良かった!」と広い食堂に響き渡る野太い声で言った。 「それでいちか様、実は通われていた学校ですが、すでに退学手続きが済んでおりましてな。新たに通信制高校への手続きを取らせていただきたいのですが、構いませんかな」 「あ、その件に関してはもう、貴瀬さんから聞きました。私はそれで構いません……」 「それは良かった! まあうちには元高校教師のカズヨシがおりますのでな、わからんことは全部あの男に聞いて下さい!」  獣の咆哮に似たライナスの声に、いちかはビクビクしながら「はい」と答えた。  運悪く、この日いちかは一人で食事中で、一郎は母親と一緒に菜園に出ており、一善は帳簿つけがあると言って自室に篭っていた。  ハンクもどこかへ行ってしまっていて、孤立無援の状況の中いちかは逃げることも叶わず、少しずつライナスとの距離を空けるのが精一杯の抵抗だった。 「ここへ来て一週間ほどですが、何も不自由はありませんかな?」  ライナスがぐっと顔を近づけて来て、いちかは椅子から落ちそうなほど反対に寄り、「いいえ、何もありません」と答えた。 「それは良かった!」     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!