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第四話「萌芽」
1
いちかがレイの屋敷に来て、一週間が過ぎた。
すでに屋敷の使用人達とは全員顔見知りになり、一郎とは姉と弟のように仲良くなった頃。
いちかはレイの執事だと言う、ライナスに会った。
執事と言うからてっきり、燕尾服を着て白髪をオールバックにした、上品な老紳士を想像していたいちかは、実物に会ってその無骨な見た目とざっくばらんな性格に驚いた。
これから熊狩に行くハンターのようなファッションで、ライナスはいちかに「やあどうもどうも、初めまして」と流暢な日本語で挨拶した。
「レイ様の側近、ライナス・ウィンターです。ようやくお会い出来ましたな」
「初めまして、斎木いちかです……」
昼食の席にいきなり現れた大男に、いちかは呆然としつつ挨拶を返した。
「どうですか、屋敷での暮らしには慣れましたか」
ライナスは隣の席に断りなく座ると、名乗った直後にそう訊ねた。
ハンク手製のガレットを食べていた途中のいちかは、ナイフとフォークを両手に持ったまま、「ええまぁ……」と警戒を露わに答えた。
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