5 緒上(おのえ)

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 草壁といえば戸峨とともに帝を擁して政治の実権を握る、大和で一、二を争う大豪族だ。神久良でもそれぐらいは知っている。(むらじ)、と称号が付いているところからして、草壁氏のうちでも当主(大連(おおむらじ))に近い男子――おそらく息子か、弟か。  と、急に神久良の視界が翳った。紹介された男は神久良に歩み寄るや否や、すっと衣擦れの音を立てて屈み、座る神久良の顔を至近に覗き込んだのだ。 「――ほう……。これが例の……」  男の口が幽かに動き、呟いた。  ぐい、と顎を摘まれ、上向かされる。 「!」 「――綺麗な貌をしているな。火向殿、雰囲気が貴殿に似ている…。いや、貴殿よりも険があるな。貴殿が水だとすれば、この子はさしずめ……氷の艶だ。男も女も虜にするくせに、他者を一切受けつけぬ艶だ。  これは帳内(ちょうない)に献上すれば帝も大兄皇子(おおえのみこ)らも、放ってはおくまいよ」  思わぬ収穫、とばかりに五百里は嗤う。  ――帳内に、献上。  まるで物を扱うような言いざまと、そして言葉そのものの意味する処を悟って、神久良の頬に怒りの朱が差す。  兄と自分が、同時に貶められた感触。  後ろで隼勢が身じろぎする。従者の男は同じく顔を紅潮させ、思わず佩刀に手をかけていた。 ※この続きはkindle版にてお楽しみください。 kindleにはあらすじページから飛べます
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