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草壁といえば戸峨とともに帝を擁して政治の実権を握る、大和で一、二を争う大豪族だ。神久良でもそれぐらいは知っている。連、と称号が付いているところからして、草壁氏のうちでも当主(大連)に近い男子――おそらく息子か、弟か。
と、急に神久良の視界が翳った。紹介された男は神久良に歩み寄るや否や、すっと衣擦れの音を立てて屈み、座る神久良の顔を至近に覗き込んだのだ。
「――ほう……。これが例の……」
男の口が幽かに動き、呟いた。
ぐい、と顎を摘まれ、上向かされる。
「!」
「――綺麗な貌をしているな。火向殿、雰囲気が貴殿に似ている…。いや、貴殿よりも険があるな。貴殿が水だとすれば、この子はさしずめ……氷の艶だ。男も女も虜にするくせに、他者を一切受けつけぬ艶だ。
これは帳内に献上すれば帝も大兄皇子らも、放ってはおくまいよ」
思わぬ収穫、とばかりに五百里は嗤う。
――帳内に、献上。
まるで物を扱うような言いざまと、そして言葉そのものの意味する処を悟って、神久良の頬に怒りの朱が差す。
兄と自分が、同時に貶められた感触。
後ろで隼勢が身じろぎする。従者の男は同じく顔を紅潮させ、思わず佩刀に手をかけていた。
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