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「……隼勢。あの石頭を説得して、なんとか今回こそ宴席に連れて来い。主役がおらねば様にならん。もし連れてきたらば、お前も勲功ものだぞ」
「都比鈷さま。若の矢傷は思いのほか深うございます。手負いのまま山道を登って来られ、疲れがおありで、具合がよろしくないものと。そっとしておいてあげて下さいませぬか。
私も若君の手当をし申さねばなりませぬので、今宵のところは、これにて失礼申し上げます」
「――そうか」
揃いも揃って堅物よ、とまではさすがに都比鈷は云わなかった。
神久良の後を追おうとする隼勢に、後ろから声が投げられる。
「隼勢」
「はい」
「――頼んでばかりで何だが、弟のこと、くれぐれも宜しく頼む。あいつはカムイが絡むとあの通りの根暗になっちまうし、どうも肝心な部分では俺たちには心を開いてくれぬ。だが、いつも傍にいるお前になら――。
あいつの心の硬さは筋金入りだ。だがその若い硬さは、鋼ではない。まだ玻璃のようなものだ。脆く危うい……。足もとが崩れれば、転がって割れてしまわないとも限らん。
俺のいう意味、お前になら分かるだろう。…だからあいつの心が壊れないように、お前がしっかり見張り、支えてやってほしい」
やれやれ、重いことを軽々しく頼んでくる御方だ。
隼勢は溜息まじりに、二つ年下の総大将を振り返る。左頬骨の下から右鎖骨にかけて斜めにはしる古傷が、首を捩じると引き攣れたように痛む。
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