2 玻璃の心

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「……その口で神久良さまを頼むとは、よく仰います。私を神久良さまの伴辺につけて、厄介払いしたつもりだったくせに」 「そう古い話をするな。昔と今とは状況も違う。それにお前ももう今は、緒上に骨を埋める覚悟ができているのだろうが」  都比鈷は苦笑う。 「……無論俺も火向(ひむか)兄も、あいつを守ってやりたいのはやまやまなのだが……。  あいつの方はお前でなければ、多分だめだろう」 「……そんなことを、いちいち命ぜられなくとも私はそのつもりですよ」  隼勢は首筋の古傷を無意識に撫でる。蚯蚓(みみず)腫れが残るこの大きな傷は、あの方が隼勢を殺しかけた時の傷だ。頸の脈まであと一寸。死ななかったのは奇蹟だった。 「私は若君をお守りいたします。あの方の心が硝子玉だと仰るなら、私がふちの丸い(いれもの)となって、割れぬように受けとめます。  ……ですが神久良さまが私に、心を開いてくださっているかどうかはまた別の話ですよ」 「……お前にもまだ心を許してはおらぬのか、あれは」 「――若君の心の真実を掴むことは、恐らく誰にもできないでしょう。あの方の中に、もう一人の方がおられる限りは……」  隼勢は言い残し、神久良の後を追って茂みの奥へ消えた。 「もう一人のお方、か」  都比鈷は夜空を見上げる。星々が頭のてっぺんに耀いていた。  逞しい腕を組み、都比鈷は暫く無言でその星々を睨んでいた。  宴席から声が飛んでくる。 「総大将、皆待ちくたびれておりますぞ。早う早う」 「お、参る参る」  ……根暗く考え込むのは神久良の役だ。都比鈷(つひこ)の性にはあわぬ。  吐く息が、白い。  宴は夜通し続くであろうことが予想された。
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