1 勲功

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 合図の指笛の鳴り響く音で、神久良(かぐら)は不意に目覚めた。  ――またしばらく、立ったまま心を飛ばしていたらしい。  自分の代わりに、あれ(・・)が表に出ていたようだ。  はぁ、はぁ。――己の息が上がっていることに気づく。  そこは木立に囲まれた戦場(いくさば)だった。足もとが傾斜している。  どうやら比良軍との戦のうちに、自分達が山中にまで入り込んだと知れる。  我に返り、神久良は合図の意味を得ようと耳を澄ませた。  ひゅい、ひゅい、ひゅい―――  杉の木立の合間を縫って奔り渡る、鋭利な音三つ。 (緒上(おのえ)の指笛ではない…、(あた)側の合図か)  すぐに鋼太刀の柄を握りなおした。具足を履いた両脚を踏みしめ、辺りを窺う。どこから新たな敵が出てこないとも限らぬ。  ――だがすぐに、もう交戦の必要はないと判ぜられた。  周囲にはすでに命の気配はなかった。あたりには(おびただ)しい数の骸しか残されていなかった。  斜面の下のほうから、合図を心得た比良軍の、敗走する音が聞こえてくる。 (退却の、指笛だったか)  どうやら知らぬ間に闘いが終わったのだと悟る。神久良は構えを解いた。  ……両腕が重い。  頭椎(かぶつち)太刀を手にした右手が重いのは、分かる。  ではこの弓手(ゆんで)の重さはなんだと、己の左側を見下ろして、神久良は息を呑んだ。 「!」  彼は、誰ぞの生首(ヽヽ)の髪を引っ掴んで、立っていた。
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