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◇◇◇
一太刀にて首斬られたのだろう、あんぐりと口を開けきったまま絶命しているそれは、一目で敵方の総大将の首であると分かった。
叫びだしそうになり、神久良は首を放り出し自分の口を押えた。
おさえた手の平も、血糊で黒く汚れていた。
重たく転がった生首が、ぎょろりと恨めしそうな眼で神久良を見上げた。
(――また、あいつが現れたのか。あれが仕留めたのか)
神久良は袖で口元を拭う。己は今、すさまじい形相をしているに違いない。
身の内に巣食うものに、知らぬ間に体を乗っ取られていたようだ。
おそらくこの見渡す限りの死屍累々も、あれの仕業だろう。
見れば己の袖も衣褌も、まったく覚えのない返り血で染まっている。
己の体を使って行われた殺戮に、不意に吐き気が込み上げた。
屈み込もうとしたところで、木立の奥から名を呼ばれた。
「――若! 神久良様!」
吐きそうなのを堪え、振り返ると、従者の隼勢が上の方から駆け参じてくる所であった。
神久良の周囲に生きた気配がないことを悟ると、隼勢は太刀を収め、死体を踏みわけ、斜面を転がるようにして神久良の元に辿りつく。
「ご無事で何よりでございました」
怪我はないかと肩を掴む隼勢に、神久良はやりきれぬ苛立ちをぶつけた。
「また俺を、見失ったのか……!」
「申し訳ありませぬ。ですがあの乱戦では……あなたさまについて行くのはさすがに無理でした」
「俺ではなく、神武衣だろう。なぜ……」
なぜあれが出る前に抑えてくれなかったのだと非難の声を上げかけたが、隼勢は、全てを云わせぬうちに神久良の足元に膝をついていた。
「若。腿に矢傷が」
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