1 勲功

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 云われてみると、確かに右腿が(ただ)れたように熱い。――覚えのない傷に、神久良の苛立ちは弥増す。 「(やじり)が傷口に残っております。無理に引き抜きなさったのか、全く無茶をなさる」 「俺ではない、くそっ。あれ(ヽヽ)がやったのだ。手当は後でいい。兄者は何処だ」 「(いただき)付近で陣を構え、指揮を」 「比良の退却は兄者に伝わっておるのか」 「恐らく。混乱しておりましたので敵方の退却の理由は判ぜられませんが――もしかすると総大将が負傷したかなにかでしょうか、」 「いや、比良の退却の理由はそれ(ヽヽ)だ。そこに転がっている」  神久良に顎で示されて、地面に転がっている首を見つけた隼勢は、一瞬の驚きのあと首に取り(すが)り、たしかにそれが敵軍の長のなれの果てであることを確かめた。  隼勢は、云えば神久良が怒ると判っているのか、極力押し殺した声で寿(ことほ)いだ。 「これは―――、ご武勲でございますぞ、若」 「俺じゃない! カムイのしたことだ!」  神久良は足許の岩を蹴る。ずきんと、腿が痺れる。  ――覚えのない手柄。自分のもとに残っているのは、刻を飛び越えたという奇妙な違和感と血臭、そして覚えのない殺戮への後悔だけだ。 「どちらにせよ、すぐに都比鈷(つひこ)さまにお伝えせねば」  隼勢は立ち上がって指を咥え、鋭くひとつ、そして長くひとつ、指笛を鳴らした。  ピッ――ピイィ――  山彦のように向かいの山肌に跳ね返ったそれは、恐らく退却してゆく比良軍にも伝わったに違いない。  数瞬おいて、山の頂きのほうから同じ指笛が返される。  本営からの(いら)えだ。
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