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隼勢と、もうひとり古参の武士に肩を借りる形で本営に戻る。矢傷を負った足で斜面を登るのはさすがに堪えた。
初冬の陽はすっかり落ち、比良山の頂には森々と冷え渡る星夜が訪れている。しかし本営の周囲には篝火が焚かれ、勝ち戦に沸く歓声が陣の外にも漏れ聞こえてきていた。
「本営のやつら、儂らより先に祝杯を上げておるわ。一番の勲しは、我らが若であるというに」
肩を担ぐ弥蘇爺が、乾杯の場に居合わせられなんだと云ってぶつぶつ零す。
「済まぬな弥蘇爺。俺の怪我さえなければ、ゆうゆう乾杯に間にあったであろうに」
「若の謝ることではござらんて。本営の奴らにちぃとは我慢ちゅう言葉を教えてやらなあ。爺は別にええが、若を差し置いてさっさと乾杯するたぁ不届きな……」
爺の延々続きそうな不平に神久良が小さく笑ったので、隼勢はほっとする。
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