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兄・都比鈷が本営の外まで出てきて出迎えた。
すでに、先に到着していた敵将の首を改め終えた後のようで、逞しい面には満面の笑みが浮かんでいる。
「良くやったぞ、神久良! さすがは俺の弟だ。これで狗久里一帯も事実上我が緒上の領となったに等しい。比良の莫迦ども、兄者の留守を狙って向こうから仕掛けて来たのはいいが、こちらに神久良が居る限り、緒上に負け戦はありえぬわ」
十ほども歳の離れた兄は、快活に笑って神久良の肩を叩いた。
都比鈷は、緒上家の次男坊である。
朝廷での足場固めのため都へ出仕していることの多い長男火向に代わり、緒上庄の兵五千名を預かる総大将であった。
さっさと焚火を囲む酒宴に加わりたげにしている弥蘇爺を下がらせ、傍には隼勢だけがつき従う。都比鈷は神久良を陣中へいざなう。
「足を怪我したとか? 大丈夫か」
「ああ、大事ない――それより戻った兵は、たったこれだけか?後の者は討ち死にしたのか」
周囲を見回し、兵の頭数の少なさを疑う神久良に対し、兄は飄々と告げる。
「案ずるな。こちらの被害は百程度…だ。ここに居らぬ者は、豊衛に率いさせて今、敗残兵の追走にあたっている」
「――百程度? 程度というのは何だ。庄の者らは全て家族同様のはずだぞ。兄者はなぜ兵らをそのように軽々しく扱うのだ!
それに、もう戦には勝ったはず。敗残兵を深追いなどする必要がどこに――」
「若、」
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