0人が本棚に入れています
本棚に追加
二、屋がやってきて、
「どうだい、できたかい」
「はい、こでやんす」
「どれどれ」
見た庄屋は驚いた。たちまち一笑の絵師の腕前が噂になって、
礼だと言って米一斗を、使用人に後日持ってこさせた。
一笑はこれでしばらくはしのげる、余った米で必要品と交換した。
「ごめんよ」
「どちらさん」
「この島の一番古い、太龍寺の住職だ」
「それで」
「お前さんの絵師の腕前を聞いてきた。何時の寺の掛け軸に絵を描いて欲しいのだ」
大きな掛け軸を持ってきた。
「江戸に出た際手に入れた上等の掛け軸だ」
「それでお前さんの名前は」
「江戸では宮川一笑と名乗っておりました」
「一笑ねー、島では」
「島では一笑は憚りますので
「画号は安道・蘇丸を用いております」
「それでは安道絵師、師匠だな」
また肉質がの浮世絵師が仏画に取り組んだ。
瞬く間に噂が広まって、
「安道師匠、俺たちに絵を教えて欲しい」
と言って片田舎の離島に一笑は江戸の新風を吹き込んだ。
「いいよ、だが真剣に学ぶことが条件」
庄屋や寺の住職、神社の絵馬を頼まれたり、
「良し、江戸に行くものに絵の具を買ってきてもらおう」
一笑はこんな離島に師匠、師匠と島民に好かれ、伊豆新島に二七年赦免されることなく暮らし、江戸の人々から忘れられた数奇な人生を送った。
今尚、一笑の絵の形跡は残されている。
自然そのものの中に人生を見出し、島民に好かれて九一歳の天寿を全うした。
了
最初のコメントを投稿しよう!