絵師一笑・流島に生きる

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二、屋がやってきて、 「どうだい、できたかい」 「はい、こでやんす」 「どれどれ」 見た庄屋は驚いた。たちまち一笑の絵師の腕前が噂になって、 礼だと言って米一斗を、使用人に後日持ってこさせた。 一笑はこれでしばらくはしのげる、余った米で必要品と交換した。 「ごめんよ」 「どちらさん」 「この島の一番古い、太龍寺の住職だ」 「それで」 「お前さんの絵師の腕前を聞いてきた。何時の寺の掛け軸に絵を描いて欲しいのだ」  大きな掛け軸を持ってきた。 「江戸に出た際手に入れた上等の掛け軸だ」 「それでお前さんの名前は」 「江戸では宮川一笑と名乗っておりました」 「一笑ねー、島では」 「島では一笑は憚りますので  「画号は安道・蘇丸を用いております」  「それでは安道絵師、師匠だな」  また肉質がの浮世絵師が仏画に取り組んだ。 瞬く間に噂が広まって、  「安道師匠、俺たちに絵を教えて欲しい」 と言って片田舎の離島に一笑は江戸の新風を吹き込んだ。 「いいよ、だが真剣に学ぶことが条件」 庄屋や寺の住職、神社の絵馬を頼まれたり、 「良し、江戸に行くものに絵の具を買ってきてもらおう」 一笑はこんな離島に師匠、師匠と島民に好かれ、伊豆新島に二七年赦免されることなく暮らし、江戸の人々から忘れられた数奇な人生を送った。 今尚、一笑の絵の形跡は残されている。  自然そのものの中に人生を見出し、島民に好かれて九一歳の天寿を全うした。             了
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