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ここで人によっては、死神さまの蝋燭を思い出される方もおられるやも知りません。確かに百年ほど昔は、人の生命を表すのに蝋燭が用いられていました。寿命の長く残っている人の蝋燭は、その炎も赫赫と燃えさかっております。それに対していまにも寿命が尽きようとしている人の蝋燭は、蝋も融け落ちてわずか残った芯の上で微かな残り火がちろちろと動いているだけとなっております。元気の有る無しがひと目で分かるのは便利だったのですが、微妙な調整が難しいという欠点がありました。そこで技術革新の流れに乗ってゼンマイ式の機械人形に全部入れ替えてしまったのです。結果、ゼンマイの調節で本当の寿命との対応が正確に行われるようになりました。
ちなみに、人の世で大病を患ったとか大怪我に遭ったとかの時でも人形が活発に動いていることがあります。それは寿命は尽きていない、すなわち人の世でのありさまが危機的なものだったとしても結果的には乗り越えられることを意味しています。それとは逆に、人間界で元気に動き回っているのに人形の方が止まり掛かっているという場合もあります。これは間もなく定められた命が終わろうとしていることを表しており、突発的な災害や不幸な事件に巻き込まれるなどの形で辻褄が合うようになっているわけです。
死神さまは、それぞれに与えられている時間が正確に消費されているかを見極めているわけでして、寿命が残っているのに止まり掛かっている人形があれば、命のゼンマイを巻き、逆のケースであれば緩めて強制的に停止させるのです。
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