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保健室につくと、先生も席を外していて部屋には誰もいなかった。
美雨ちゃんは私を空いている席に座らせると、隣でずっと背中をさすってくれていた。
どれぐらい経っただろう。
ようやく動揺していた気持ちが落ち着いてきた。
「ごめんね、美雨」
「気にしないで。それより・・・何があったの?宇田に何かイジワル言われた?」
私は首を左右に振った。
「ねぇ、文香。黙ってちゃ何も分からないよ・・・」
美雨ちゃんにそう言われ、私は少しためらいながら今までの宇田くんとのやり取りをポツリ、ポツリと話した。
「・・・由香先生の事を『ゆか』って親しく呼んだ事に動揺したってことね。文香、宇田の事好きだったんだ」
「え?」
「『えっ?』て文香、自分が宇田のこと好きだって気づいてなかったの?」
「・・・」
きっと薄々は自分でも気づいてはいたと思う。
だけど傷つくのが怖くて気づかないフリをしていた。
「美雨ちゃん、好きって・・・恋ってツライものだね」
今まで沢山恋愛小説を書いていたけれど、小説はいつも両想いになることは決まっていた。だけど先の読めない不安定な状況に私はとても耐えられそうにない。
「好きになんか、ならなきゃよかった」
「何言ってるのよ。文香。あなたまだ何もしてないじゃない」
「え」
「宇田に小説貸して、感想聞いて、由香先生を親し気に呼ばれショック受けて感傷的になってるだけじゃない」
「・・・う、そ、それは」
「それに、由香先生と宇田が付き合ってるとは決まったわけじゃないでしょ」
「うん、でも・・・」
「言い訳しない!」
「はいっ」
「・・・ねぇ文香、誰でも好きな人が出来たら怖いんだよ。でも怖いからって、文香には逃げて欲しくないの。友達だから・・・」
美雨ちゃんは立ち上がり背を向けてドアに向かった。
「キツイこと言ってごめん。さっきのはあくまで私の意見。あとは文香の気持ちだから好きにしていいよ」
ドアを閉め、走っていく足音が響いた。
私は保健室で一人、その場から動けなかった。
一人になってからは何も考えられなくてぼんやりしていたけれど、しばらくして、ゆっくり今までを冷静に振り返ると、確かに美雨ちゃんの言う通りだった。
宇田くんの事、まだ何も知らない。
ちゃんとたくさん知って、知ってもらってそれでちゃんと伝えなきゃ、ただの妄想だ。
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