恋文

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「出来たぁー!」 誰もいない、放課後の教室。 私、花枝文香(はなえだふみか)は、にらめっこしていた原稿用紙の上で軽快に走らせていたペンを、机に置いて大きく伸びをした。 この原稿用紙に書いていたのが、さっきまでのシーン。 つまりさっきのは現実でなくて、私の頭の中で繰り広げられていた妄想・・・、もとい物語。 タイトルは『恋を綴るひと』 私は文芸部に所属していて、今回部誌を発行しようという話が出てそのために書いたものだ。 美雨(みう)ちゃんに、早く読んでもらいたいな。 そんな風にワクワクしていると、教室のドアがガラリと開く音がした。 そちらの方に視線を移すと、宇田宙(うだそら)くんが立っていた。 宇田くんとは二年に進学してから初めて同じクラスになった。 「うわあぁぁ!」 私はとっさに叫びながら持っていた小説の束を手で隠した。 「花枝さんじゃん。まだ残ってたんだ。・・・てか、なんか隠した?」 私は勢いよく首を左右に振りながら、手で隠していた小説を鞄に押し込む。 宇田くんは、気持ち悪がるわけでもなく、愉快そうにハハハと笑った。 「花枝さん、面白いね」 「えっ?そっ、そうかな?そっ、それより宇田くんこそどうしたの?」 宇田くんは確か陸上部だ。陸上部はうちの高校は結構強豪で、彼はその中でもエースだからいつも遅くまで練習しているからこんな時間に教室に戻ってくるハズはないのに。不思議に思って尋ねた。 「さっきから急に雨降りだしたから、部活急遽中止になったんだ。んで、帰ろうとした時に教室に折りたたみ傘置いてたの思い出して戻ってきた。・・・お、あったー」 話しながら、私の後ろの席である彼の机の中を探り、折りたたみ傘を取り出した。 窓の外に目を移すと外は本当に土砂降りの雨だった。 今日は晴れの予報で、雨も降らないと思っていたから傘を持って来ていない。 さっきまで晴れていたのに、でも今はとても走って帰るレベルの雨でない。 「どうしよう」 「え、傘持ってないの?」 「・・・」 「じゃ、一緒に帰る?」 「えええっ!!」 予期していない申し出にお腹から声を出して驚く私に、宇田くんは目を丸くした。 「あ、ご、ごめんなさい」 「びっくりした」 アハハ、と愉快そうに笑う宇田くんを見ながら、私は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
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